洗足学園音楽大学は神奈川県川崎市高津区に位置し、毎年、世界で活躍する音楽家や優秀な技術者を輩出しています。

本校は伝統的なクラシック音楽を主体とするコースと、商業的なつながりを意識したコンテンポラリーな分野に分かれていますが、近年は音楽環境創造コースやメディアアーツコースなど実践的に技術を学べるコースが設置されています。また、それぞれの基幹授業に対応する特色ある施設を備えています。

その中にある3つの施設に、L-Acousticsの音響システムが採用されました。

前田ホール:世界最高の音響をめざした、パイプオルガンも備える日本初の「シューボックス」型本格ホール

MUSIC POOL CINO:映像/音響を駆使した最新の演出が可能なミュージカル専用劇場(座席数300席)

ビッグマウス:ジャズ、ロックなどのコンサートが開かれる客席数180席のライブスペース

今回の機材選定に携わった「音楽環境コース」統括教授の前田 康徳 氏と、Media Integration ROCK ON PRO 日下部 紀臣 氏にお話しを伺いました。

音楽環境創造コース:先端の舞台制作をマネージメントする人材の必要性

まず、機材選定の背景を理解するためには、前田氏が統括する「音楽環境創造コース」の取り組みを通じて、大学が音響に対してどのような考えを持っているかを知る必要があります。

例えば、ミュージカルコースの公演では、20波を超えるワイヤレスマイクの運用に加え、映像、照明、音響といった演出が不可欠です。また、映像の収録や配信の企画も求められるでしょう。こうした多岐にわたる制作技術を統括できる人材の育成を目指し、大学が創設したのが「音楽環境創造コース」です。

このコースでは、音響、照明、制作、映像配信を総合的に学べる環境が整えられており、学生は自分の興味に応じて分野を切り替えながら、専門的なスキルと他分野の知識を習得できます。こうした教育の成果により、音楽環境創造コースの卒業生は多方面から高い評価を受け、その結果、2023年度卒業生の就職率は97%を達成しました。

音楽環境創造コースは、時代のニーズと共に進化する洗足学園音楽大学の先進性を象徴していると言えるでしょう。

前田ホール

前田ホール。洗足学園音楽大学より転載

 

洗足学園音楽大学の創立者の名前を冠するこのホールは、1981年に竣工した日本で最初のシューボックス型ホールです。(残響約2.6秒)この度、音響設備の更新で、A10システムが導入されました。

取材に訪れたこの日は、全コースが共同で作り上げる『卒業公演』の準備中で、レーザーと映像・照明の調整が進んでいました。

前田ホールはクラシック専用のホールとして利用されてきましたが、異ジャンルとのコラボレーションや映像・照明を活用した近年のコンサート様式に対応するため、音響設備が求められるようになりました。従来使用されていた他社製ポイントソースではロックやジャズ演奏時にパワー不足が懸念されていたため、この度の更新に至りました。
新たに導入された設備は、A10 FOCUS ×4台、A10 WIDE ×2台、KS21 ×4台、LA4X ×2台です。

前田ホールはクラシックホールとしての用途を重視しているため、スピーカーを常設することができません。そのため、A10システムは使用時に毎回組み立てが必要ですが、これが授業の一環にもなっています。

ホールは3階席を含めて約1,100人を収容可能な規模です。導入時にはA15システムも検討されましたが、男女比で約74%を占める女性生徒にも扱いやすい軽量かつコンパクトなA10が選ばれました。
生徒たちは幾度となく設置、チューニング、撤収の工程を経験しているため、作業も手慣れてきており、作業時間も短縮されています。一連の作業を通じてスキルを身に付けることに、生徒たちは喜びと達成感を感じているそうです。

MUSIC POOL CINO

「CINO(シーノ)」の愛称で親しまれるこの施設は、ミュージカルコース専用の劇場です(座席数300)。
専用劇場があることで、練習中の演目に使用するセットをそのまま維持でき、いつでも最適な環境で練習が行えるというメリットがあります。

CINOでは、プロセニアムのLCRに常設されたX12 ×3台に加え、演出に応じて柔軟に使用できる移動用のX12 ×16台、SB18 ×4台、LA4X ×5台が採用されています。

CINOは2020年に新設された比較的新しい施設で、それ以前は25mプール施設でした。このため奥行きに比べて間口が広い構造となっています。

音響設計の当初、LR配置のスピーカーでは中抜けが発生することが課題でした。しかし、Soundvisionを用いた視覚的シミュレーションにより、観客席全体がサービスエリアに含まれることが確認され、前田氏は「これで問題ない」と確信したそうです。

また、ミュージカルコースの講師がスピーカーに高い解像度と自然な音質を求めていたこともあり、L-Acousticsが採用されました。
日下部氏は「様々な演目が行われるため、なんにでも対応できる音質が必要でした」と振り返ります。 CINOの竣工後、講師の方はX12の音質に満足されたそうです。

ビッグマウス

2009年に竣工したビッグマウスは、ロック&ポップスやジャズを中心としたライブスペースです。オープン当初はミュージカルコースも利用していたため、その名残で客席がシアター形式になっているのが特徴的です。

以前使用されていた常設のポイントソースの生産が終了し、メンテナンスの問題が発生したため、今回の更新でA15 FOCUS ×6台、KS21 ×4台、LA4X ×3台が採用されました。

ビッグマウスは、学校外から観客や関係者、報道陣を招くコンサートを前提とした施設であるため、プロフェッショナルな機材の選定が必要でした。また、竣工当初使用されていたスピーカーの音質が粗いと不評だったため、より高品位な音質が求められていました。

日下部氏は「コンパクトでパワーがあり、かつ授業でも使用できる、ワールドワイドに普及しているものという条件を兼ね備えていたのがL-Acousticsでした。」と語ってくださいました。

A15の音質は観客からも生徒からも好評だということです。

前田 康徳 氏:音楽環境コース統括教授

最後に、前田氏と日下部氏にL-Acousticsを選定した理由と導入後の感想を伺います。

日下部氏「L-Acousticsを選んだ理由の一つは、システムが省電力である点です。大学内の各施設の電力には限りがあります。電源容量内で希望するスペースをカバーできるものを検討していく中で、LA4Xの省電力性に魅力を感じました。」

前田氏「L-Acousticsへの信頼感は揺るぎないものがあります。例えばCINOで採用の決め手になったのはサウンドの良さでしたし、お客様からも音が良いというアンケート回答をいただいています。
生徒にとって、L-Acousticsの音がリファレンスとなっています。良いサウンドを聴かないと良いサウンドを求めることはできません。学校に良いサウンドシステムがあることは、非常に大切だと思います。」


加速度的に進化する表現と舞台現場。その流れを的確に読み取る洗足学園音楽大学。サウンドシステムの選定を担当する前田氏は「いつかライブイマーシブを実現できるホールが欲しいです」とおっしゃっていました。これからも、洗足学園音楽大学はさらに前進していきます。
L-Acousticsのサウンドをリファレンスとする若きアーティストと技術者が、次の時代を切り拓いてくれることを期待しています。