流行発信地の渋谷と学生でにぎわう三軒茶屋にほど近い三宿にキャンパスを構える国立音楽院(くにたちおんがくいん)の東京本校。

カンパニースクールである国立音楽院は、楽器の演奏から製作、作曲理論、音響、セラピーやリトミックまで幅広く音楽が学べる学校です。授業形態は好きな科目を自由に選べるオープンシラバス制で、生徒の興味や個性を活かした学びの場となっています。

国立音楽院の歴史は深く、1967年に東京都国立市に音楽教室として設立。現在はその頃の名残で「国立(くにたち)」という名称が使われています。
現在の校舎は1970年代に「J-POP史に衝撃を与えた」とされるフォーライフレコードの元オフィスであり、建物の竣工は1990年代と言われます。その地下1Fに設けられた音楽ホールが現在「KMAパラダイスホール」として活用されており、教育施設としてはもちろん外部へのレンタルも行われ、著名アーティストのライブや各種イベントが開催されています。

そしてこの度、このKMAパラダイスホールのスピーカー改修で、L-Acoustics A15を中心としたシステムが導入されました。

KMAパラダイスホールがあるのは校舎の地下1階。キャパシティが約300名で天井高は約8mという開放的な空間。木製フロアの床厚が40mmという贅沢な仕様で、壁面や天井を覆う防音材は現在は入手困難な素材が用いられているということ。その箱鳴りはとてもナチュラルで美しい広がりがあるとエンジニアやアーティストに評価されています。

この度のスピーカー改修は、音響を学ぶ生徒に対して「本当の音を知ってもらい、ベストでマストな機材に触れられる環境を作りたい」という学校側の思いから始まりました。
ちょうどその頃、2023年に音響デザイン科の講師として新就任した、音響エンジニアの小松 久明 氏(株式会社K.M.D Sound Design.代表取締役)がこのホールの箱鳴りの良さに感銘を受け、学校側の思いに共鳴。「これほど音の良い会場であれば外部への貸し出しもしたほうがよいだろう」という話が挙がり、スピーカーの改修へと物語が進んでいきました。

KMAパラダイスホールに導入されたスピーカーシステムは、「箱の鳴りの良さを最大限に活かし、2階席にまで迫力ある音を届けたい」という小松氏のたっての希望で特製の鉄骨フレームが作られ、その中にA15 Focus × 2台、A15 Wide ×1台がフライングされ、KS21 ×2台がグランドスタックで設置されました。

音の狙いは上から、A15 Focusが2階席。その下A15 Focusは1階奥のFOH付近からフロア中ごろまで。A15 Wideがそこから1階最前あたりまで。A15 Focus ×2台のL-Finは壁への反射を抑えるため内向きに90°に設定。A15 Wideは110°。

KS21 ×2台は様々な置き方を検討した結果、L-Acoustics推奨の現在の形に落ち着いたということ。

「最前列にも高品位な音を。」という小松氏のリクエストで、インフィルにX8 ×1台を採用

アンプリファイドコントローラー LA4X ×3台でシステム全体を駆動。

改修にあたり様々なブランドや製品がある中でL-Acousticsを選んだ理由を、勝田 幸一氏(国立音楽院 広報・総務部長)が語ってくれました。
「WEBなどで情報収集をしたところ、世界の名だたるホールにL-Acousticsが導入されていることを知りました。学校はロック・ポップス・ジャズ以外に器楽も扱っているので、L-Acousticsであればジャンルに縛られず幅広い音楽に対応できるのではないかと関心を持ちました。
そして調べていくうちにL-Acousticsは音質に定評があり、いま人気の高いブランドで、世界的にスタンダードだということが分かりました。学校の運営や外部への貸し出しも考慮していくとこのような話題性も重要になります。L-Acousticsは様々な条件を満たすブランドだと思い、小松氏にL-Acousticsでどうかと相談しました。」

小松氏もL-Acousticsを選んだ理由について語ります。
「長年、私は様々な現場でミキシングエンジニアとして仕事をしており、K1を使ったこともありました。また、多くのホールでL-Acousticsのスピーカーシステムが導入されていて『間違いないブランド』という印象がありました。そして偶然にも国立音楽院の代表が好きなアーティストがL-Acousticsを使っていました。これはアーティストにも信頼されているということで、国立音楽院とL-Acousticsとのご縁と言ってもいいかもしれませんね。」

L-Acousticsの製品の中でもA15を選んだ理由をさらに小松氏にうかがいました。
「どれだけ大きな音を出すバンドが来ても満足な演奏できるようにA15を選びました。箱のサイズにジャストな小さなモデルを導入して不安な中でライブをするよりも『大は小を兼ねる』でこのサイズにしておきたかったのです。」

導入の検討時にはKMAパラダイスホールにA15を持ち込んで試聴会が行われました。その時の様子を小松氏は続けて語ります。
「試聴会ではA15をグランドスタックで鳴らしました。フライングしたらどうなるかはSoundvisionの予測を頼りにしていましたが、実際に導入してフライングしてみたら思っていた100%の音が出ました。2階席にいるお客様がノれることが重要だという考えがありましたが、しっかりパワーがある音が届いています。1階も2階もホール全体が良い音で一つになってグルーヴできる音になりました。」

このインタビューを行った日は、ミュージシャンの耳でA15の音を確かめてほしいという小松氏の願いに応えて、アーティストの[ kei ] 氏が同席していました。

自身が作曲から演奏、ミックス、マスタリングまで手掛けるマルチな才能と「耳」を持つ[ kei ] 氏。自身の音源を聴きながらA15の感想をこう語ります。
「全国でライブを行う時に、それぞれの会場で自分が作った曲をかけてチェックをすることがありますが、どこもレコーディングスタジオのモニタースピーカーの音とは別なものになってしまっている印象でした。ですからこれまでライブ会場のスピーカーに再現性を求めてはいませんでした。
しかしA15は自分のスタジオで作った音と印象が大きく変わりません。ウーハーとミドルの繋がりも良く、自然に聴こえます。」

[ kei ] 氏は2月18日を皮切りに5月までKMAパラダイスホールでワンマンのマンスリーコンサートを行います。そのためのリハーサルをこのホールで行い音作りを仕込むということ。まさに万端の準備で挑むライブに期待が高まります。

続いて小松氏にもA15の音の感想をうかがいました。
「A15は余裕のある音がします。この余裕がないと歪んでしまうのです。A15は大音量のロックから質感を求める音楽までジャンルを選ばないと思います。プランニングと調整を丁寧に行った結果、最前列でもFOHでも2階席でもすべての場所で良い音になりました。フライングにしたのもこのためです。全ジャンルで100%理想の音になりました。」

左から 小松 久明 氏、[ kei ] 氏、勝田 幸一 氏

最後に、国立音楽院の勝田氏にA15で生まれ変わったKMAパラダイスホールの音の感想と、学校としてこのホールを持つことの意味を語っていただきました。

「音は”素晴らしい”の一言です。見た目はシャープなスピーカーなのにとてもダイナミックで豊かな音を感じます。」
「L-Acousticsの音を基準に音響を学んでいく生徒は良い耳に育つでしょう。そして願わくば生徒も講師もこのホールの音に刺激されて、全ての学科が活性化していってほしいです。発表会も増えてほしいですね。学校にとってこのホールは大事な場所です。L-Acousticsのスピーカーへは『国立音楽院にとって大事な相棒が来てくれた』という思いです。」
「外部への貸し出しのことを言うと、学校の施設であっても『とても音が良い』と評価されたいという願いが叶いました。外貸しのイベント等でこれから多くの来場者があると思いますが、誰が来ても『すごい!』と言ってほしいです。」

古いスピーカーからの改修によって、学校は学びの質の向上で活性化し、アーティストは音の追求をさらに深めることが可能になりました。さらに外部へのレンタルによってKMAホールはビジネス的な価値も向上していくことでしょう。学校、オーディエンス、アーティスト、エンジニア 全ての人の希望を乗せて、KMAパラダイスホールの躍進が始まりました。

国立音楽院 東京本校
〒154-0001 東京都世田谷区池尻 3-28-8
https://www.kma.co.jp/

[ kei ] (けい) 氏

■プロフィール
8月12日生まれ
ギター/ヴォーカル/作詞・作曲・アレンジ/プロデュース/エンジニアリング/アートワークなどをすべて手がけるシンガーソングライター&ギタリスト。 ギタリストとしてイベントや楽曲への参加、プロデューサー&ギタリストとして楽曲プロデュースや楽曲提供など、音楽家として幅広い活動も行なっている。
kei-official.jp

■LIVE INFO.
[ kei ] LIVE 2024
「-174」 2月18日(日) KMA PARADISE HALL
「-148」 3月17日(日) KMA PARADISE HALL
「-107」 4月27(土) KMA PARADISE HALL
「-78」 5月26日(日) KMA PARADISE HALL
「0」 8月12日(月・祝) coming soon…

小松 久明

株式会社K.M.D Sound Design.代表取締役。
いれいす、大黒摩季、河村隆一、手嶌葵、にじさんじ、吉澤嘉代子、BAROQUE、INORAN、[ kei ]、LUNA SEA、Tourbillon をはじめとするアーティストのコンサートエンジニアリングを担当し、国立音楽院の音響デザイン科講師も務めている。KMAパラダイスホールのスピーカー改修では機材選定やプランニングを担当。
https://www.kmd-sd2021.com/

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