2023年2月
アデルを知らない人は少ないはず。グラミー賞を16回受賞し、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、プライムタイム・エミー賞も受賞しているアデルは、歌詞、歌声、ステージ上での繊細ながら強い個性を通して、コンサートの観客を彼女の世界に引き込むコツを知っています。11月18日から3月25日までの5ヶ月間、シーザースパレスのコロシアムで開催される『Weekends With Adele』では、まさにそれを実現しています。L-AcousticsのL-ISAテクノロジーを使用した完全なイマーシブ・サウンドシステムが、彼女の芸術的センスを引き立てるのにひと役買っています。USA Today紙は「壮大な2時間」と評し、Las Vegas Review-Journal紙は「会場の音響はアデルの完璧なボーカルにマッチしている」と書いています。

「アデルは音質の重要性を認識していて、ツアーでそれに高い優先度をつけてきました。」とプロダクションのシステム・エンジニアを務めるジョニー・カール(Johnny Keirle)氏は語ります。彼は2016年からアデルのツアーを行っており、ビリー・アイリッシュやピンクなどのツアーにも参加してきました。「アデルと彼女のマネージメントチームとは早い段階からL-ISAの採用について話し合ってきました。」当初は予算の関係で慎重になっていたそうですが、ロンドンでデモを行いプロダクション・マネージャのポール・イングリッシュ(Paul English)氏と話し合った結果、L-ISAによる没入感は彼女のパフォーマンスに貴重で比類ない親密感をもたらすという結論に至りました。

イングリッシュ氏は続けます。「72時間以内に搬入・搬出を済ませないといけないこのプロダクションは、文字通り40台のトラックを必要とするスタジアム公演で、毎週末4,100人収容の非常に親密な劇場で上演されます。しかし、部屋の大きさは方程式の一部に過ぎません。L-ISAはこのショーのために最高の音質を提供し、アデルと彼女のファンの親しいつながりを完璧に育んでいます。」

Clair Globalが提供する『Weekend With Adele』のL-ISAシーンシステムは、ミックスの中核とパフォーマンスの焦点となるもので、L-Acoustics K2による7つのアレイで構成されています。Karaによる2つのハングが拡張アレイとアウトフィルを提供します。KS28サブ2台による2つのハングが中央のK2アレイの後ろに吊り下げられ、さらにグラウンド・スタックのサブウーハーが舞台袖と舞台下に分散して配置されています。コンパクトな5XTが空間フィルとして舞台前全体に配置されており、それより大きなX8がアウトフィルとして配置されています。全システムはLA12Xアンプリファイド・コントローラーがドライブし、L-Acoustics P1プロセッサとL-ISA Processor IIで管理しています。信号はL-Acoustics LS10とLuminex AVBスイッチを介してMilan-AVBネットワーク上に分配されます。

カール氏にとって、L-ISAを使うのは初めてでしたが、母国ニュージーランドで受けたオンライントレーニングのおかげで、すぐに使いこなせ、自信を持つことができたと説明します。「L-Acousticsアプリケーション・チームは、とても親切に対応してくれました。Teamsでオンライントレーニングを行い、イマーシブオーディオの実用面と理論面を学んだ結果、リハーサルに入るとすぐにL-ISAに馴染みました。」

カール氏とFOHエンジニアのデイヴ・ブレイシー(Dave Bracey)氏は、すぐに自分に合ったワークフローを確立しました。カール氏はプロセッサで曲ごとにオートとマニュアルの動きを組み合わせて作成し、ブレイシー氏はボーカル、バンド、オーケストラのミックスを完成させることに集中しました。

アデルがシーザースパレスのコロシアムで開催している、ラスベガス・ストリップで最も熱いイベント『Weekends With Adele』は、L-AcousticsのL-ISAテクノロジーを導入しています。

「僕とカールさんは、ユニークな方法でL-ISAでコラボしています。FOHエンジニアとシステム・エンジニアとの典型的な関係ではないし、彼は典型的なシステム・エンジニアの役割をしているとも言えないのです。」とブレイシー氏は説明します。「彼もショーのサウンドにクリエイティブな意見を持っています。セットの各曲についてどうアプローチすべきか話し合った結果、彼はプロダクションと曲に適したオートとマニュアルのスナップショットをいくつか作ってくれました。僕は、自分のミックスをシーンシステムに送ってもらったら、それをイマーシブのテンプレートとして利用してミックスを完成させます。完全に新しいやり方でライブミュージックのミックスにとてもやりがいが出ます。」

カール氏はミキシングとシステムエンジニアリングといった役割は分別される一方、両方ともL-ISAのイマーシブ環境に統合されると指摘します。「今までこういう環境で働く経験はなかったので、独自のやり方を見つけて作業を進めながら工夫しました。」と言います。「それぞれの役割に特化した人材が必要なのです。僕は、FOHコンソールから96のポストフェーダーフィードを受け取って、奥行きや幅などのパラメーターを決定するなど、サウンドの処理と位置づけに集中する一方、ブレイシーさんはコンソールとミックスに集中し、その背後にある処理については考えなくてすみます。このワークフローは、L-ISAが各曲にどのように合わせるかを検討してそれを基にリハーサルの時に考えたものです。」

カール氏はFOHのエンジニアリングの仕事が忙しいです。ブレイシー氏のDiGiCo Quantum7 ハウス・オーディオ・コンソールから、 オプティカルループの一環としてOptocore DD4MR-FX デジタルI/Oとインターフェースユニットを使用しています。チャンネルはダイレクトアウト経由でコンソールからDD4MRに送られ、オプティカルMADIとして出力されます。オプティカルMADIはRME MADI Bridgeで受けとられ、BNCでMADIをプライマリおよびセカンダリのL-ISA Processor IIユニットに出力されます。プロセッサからアンプリファイド・コントローラーへの出力信号分配は、LA12XがLS10とLuminex GigaCore 26iと14R AVB分配型ネットワークスイッチからMilan AVBを受け取ります。


「AVBも各L-ISA Processorから AVB V-LANに直接入力し、各L-ISA ProcessorはMADIを2つめのRME MADI Bridgeへ出力しています。」とカール氏は説明します。「これはオプティカルMADIを様々なFerrofish A32コンバーターへ出力します。RME MADI Bridgeはインプットマトリックスとして機能して、Ferrofish A32は特定のMADIストリームをアナログに変換し、LA12Xアンプリファイド・コントローラーのアナログ入力に供給します。」

カール氏とブレイシー氏の理念は、アデルのダイナミックキューに従うことです。彼女の曲はたいていピアノとボーカルだけで静かに始まるので、イマーシブのサウンドステージの幅を狭くしセンターステージに集中させます。そして、楽器やエフェクトが加わるにつれてサウンドスケープが広まり、深まっていきます。

これは没入感のあるサウンドへの一般的な良いアプローチだとカール氏は考えています。「これは私たちが早い段階で議論したことです。効果的なミックスを作成するコツはテクノロジーを控えめに、そしてさりげなく使うことです。」と説明します。「オーディエンスが慣れるにつれて徐々に音像を強めたり広げたりしていくことです。オーディエンスの耳と目があるレベルに慣れたら、たとえば、彼女のボーカルを楽器の中に置いたり再び前に出したりするなど次のレベルへのサウンドの変化に気づいていきます。小さな変化であれ、非常に感動的で効果的なコントラストをもたらすことができます。」

カール氏とブレイシー氏は、ライブサウンド業界において、特に『Weekends With Adele』のような一流のイベントにおいて、今後ますます一般的になっていくと思われるワークフローのモデルを形作っています。同時に、イマーシブ型ライブサウンドの最初の目新しさは今後ますます一般的になっていくでしょう。「このテクノロジーに慣れたら、音楽をミックスすることが簡単になること気づきます。EQやダイナミックスを使ってボーカルを無理やりに押し込むよりも、楽器の中にポイッと入れる方が簡単なのです。実際、L-ISAを使用すると、あらゆるものの居場所を見つけるのが簡単になります。」

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