ウェルカム・コレクションは、L-Acousticsイマーシブツールを使用したLand Body Ecologies Festivalの展示で環境とメンタルヘルスの課題を探る
2023年9月
8月に、ロンドンにあるウェルカム・コレクション博物館・図書館にて、「Land Body Ecologies Festival」のイベントが開催されました。来場者は4日の間、五感を刺激するアートインスタレーション、ワークショップ、講演会、パフォーマンスで、人間のメンタルヘルスと生態系の関係について無償で学ぶことができました。Land Body Ecologiesは、権威のあるHub Awardを受賞したイギリス・ヨークシャーの総合的なアートスタジオ「Invisible Flock」とパートナーによってリードされているリサーチグループで、イベント自体はUnbox Cultural FuturesとInvisible Flockに提供されました。
「このプロジェクトでは特に野生生物と環境に焦点を当てており、それらへの人間の影響や理解度を紹介しています。」とInvisible Flockのテクニカル・ディレクター、ベン・イートン(Ben Eaton)氏は語ります。「アーティストはいかに関心を高めることができるか、また、いかに解決策を考えだしたり、気候課題に関する研究に貢献したりできるかにとても重点を置いています。」
Boalno: ぐるっトナカイ
Invisible Flockによる、Land Body Ecologies Festivalの目玉となった『Boalno』は、イマーシブ・オーディオで来場者を北極の風景に没入させ、スウェーデンのサーミ人が毎年3000頭のトナカイを放牧しているBoalnotjåhkkå山https://maps.app.goo.gl/xAsUUA84pgW2dJ2U6 の頂上へいざないました。展示はウェルカム・コレクション博物館の読書室で行われて、16台のL-Acoustics X8が水平で360°アレイ状に配置されました。
Invisible Flockのテクニカル・ディレクター、ベン・イートン氏とクリエイティブ・ディレクターのヴィクトリア・プラット氏は2日をかけてアンビソニックマイクとパラボラマイク、そしてSound Devices MixPre6を用いてトナカイの牧場を録音しました。その後、L-AcousticsのL-ISA Studioソフトウェアパッケージで、オーディオファイルの空間化ミックスを作成しました。最終的に、オーディオミックスが約20分の上映時間に凝縮され、例年のトナカイ放牧の音を見事に再表現できました。
イギリス、サリーに本拠を置くDeltaLiveは、Invisible Flockの『Boalno』展を含めて、Land Body Ecologies Festivalで様々な機器と音響設備サービスを提供しました。アカウント・ディレクターのスティーブン・ヒューズ氏は、インターフェイスとプロセッサーのセットアップをこのように説明します。「ラップトップで運用したReaperでBoalnoのセッションとL-ISA Processorに接続したRME MADIface AVBカードを使用しました。セッションに16の出力しか要らなかったので、L-Acoustics LA7.16iアンプリファイド・コントローラーはぴったりでした。」
何世紀も続く伝統
サーミ人は、北欧の先住民族で、近代的な技術や気候危機が到来するはるか以前から何百年にもわたってトナカイの放牧を続けています。「トナカイの群は毎年同じルートで季節移動するため、サーミ人はトナカイがどこへ向かっているかよく知っています。」とイートン氏は説明します。「彼らは、移動中のトナカイを見つけ、家畜小屋に連れてくるというトナカイと密接な関係を持っています。放牧は2週間ほど続き、子供から大人まで、コミュニティ全員が行います。」
L-ISA Studioでサウンドソースを生かす
イートン氏はL-ISA Studioの包括的な機能パッケージ、特に、アップデートされたFX EngineとLow-frequency Oscillator (LFO) のコントロール機能が気に入っているそうです。「前回の大規模プロジェクト『The Sleeping Tree』の録音は森の中で行われたため、リバーブが多めでした。L-ISA StudioのFX Engineを使ったおかげで、サウンドを1つにまとめることができました。」
23年5月の6日~7日の二日間、Invisible Flockはブライトン・フェスティバルの1つのプログラムとして、ブライトン・ドームで『The Sleeping Tree (Pohon Tidur)』展を開催しました。『The Sleeping Tree』は、はるか遠くの脆い生態系とオーディエンスををつなぐためにデザインされた長時間のサウンド体験です。プロジェクトは、環境データと、インドネシアの熱帯雨林で3か月にわたって行われたマッピングプロセスで収集された5000時間のデータを使って作成されました。『The Sleeping Tree』はイートン氏が録音したサウンドスケープをマッピングするためにL-ISA Studioを利用した初めてのプロジェクトでもあります。「L-ISA StudioのFX Engineを利用するまではサウンドを綺麗にまとめることができませんでした。」と回想します。
『The Sleeping Tree』のために、ロンドンに本社を置くSolotechはL-Acoustics L-ISAイマーシブサウンドシステムと設備サービスを提供しました。
「Boalno」の場合、広い空間で録音されたためにリバーブを少なめに利用しました。「アンビソニックマイクの繊細さは空間に広がりを感じやすくします。」とイートン氏は説明します。彼はL-ISA 3.0のLFOコントロールを用いて、パラボラマイクの信号をサウンドスケープ内に生かしました。
「『Boalno』では、回転するオブジェクトが多かったのでLFOをたくさん利用しました。」とL-ISA 3.0の新機能にハマったイートン氏は語ります。「違うスピードでLFOを利用して、オーバーラップさせたり、フェイズイン・フェイズアウトさせたりしました。そうやってトランス状態のような、絶えず動き続ける不思議なサウンドを作り上げることができたのです。動きは、このプロジェクトの決定的な特徴となりました。」また、イートン氏は L-ISA Studioを使ってワークフローの効率を高めたと指摘します。「L-ISA 3.0の新しいエフェクトはとても気に入っています。時間の節約に繋がり、このプロジェクトにおいてとても貴重な役割を果たしました。」
L-ISA 3.0を使ったライブ展示
『The Sleeping Tree』の最終日のために、Invisible FlockはミュージシャンのNabihah Iqbalとコラボし、エイプとモンキー、そして人間と飛行機の音を背景にギター、ボーカル、モジュラーシンセを使った55分のライブパフォーマンスを作成しました。イートン氏らはL-ISA Studioなどを用いてライブパフォーマンスを作り上げました。「すべてのライブ・エレメントはL-ISA Studioに読み込まれ、フィールドレコーディングと合体されました。」とイートン氏は説明します。「同時に全てのソースを使用しましたが、L-ISAを使ってリアルタイムで操作していました。それができることはとてもエキサイティングでした。L-ISA Studioの汎用性に感謝しています。」
長期の旅、何時間にも及ぶレコーディングとミキシングなど、とてつもない労力を必要としながらも、『Boalno』や『The Sleeping Tree』のようなプロジェクトはイートン氏にとって非常に愛着のある仕事でやりがいのある展示だといいます。「どの展示も非常に感動的で、様々なオーディエンスの反応を見るのが興味深かったです。特に終わりのリバーブトレイルが響き渡るときに、いつも心に響きます。」