L-Acousticsの技術がエッセン・フィルハーモニー管弦楽団のパフォーマンスを向上させる
2023年1月
ドイツ西部のエッセン市にあるフィルハーモニー・エッセンのアルフリード・クルップ・ザールは、その素晴らしい音響効果とエッセン・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地として名高い会場です。フィルハーモニー・エッセンは、19世紀半ばからコンサート会場として使われてきた場所に建っています。1904年に建て替えられましたが、第二次世界大戦で破壊されました。その後1949年から1954年にかけて再建された際に近代化されました。2003年から2004年にかけて行われた総工費7200万ユーロの改修工事で、最も重要な会場であるアルフリード・クルップ・ザールは約2000人まで収容できるよう拡張されました。
2019年、ホールのプログラムが伝統的なクラシック音楽のレパートリーの域を超えたため、会場の管理者は、ポップ、ロック、ジャズのコンサートに対応できる十分なパワーを提供できる新しいオーディオシステムの必要性に気づきました。そして、音響改修とSRシステムのアップグレードプロジェクトを開始し、L-Acousticsの柔軟性の高いKara IIを中心とした設備を選択しました。
音響コンサルタントのMüller-BBM Building Solutionsは、2000年代初期に改修のための音響計画をすべて行っており、2019年に再びフィルハーモニー・エッセンから新しい設計を依頼されました。これまでの改修では、大規模な建築改修を行ってきました。最近はステージ上部に18t の可動式多角形パネルが、ホールの残響特性を最適化し、オーケストラの生演奏に理想的な音響特性とすることで演奏者と観客の両方の聴覚体験を向上させるために追加されました。
「以前のシステムは非常にうまく機能していましたが、音楽プログラムの進化に伴い、もう少しパワーが必要でした。」と語るのは、ホールの旧システムの企画・設計を行い、現在は新しいスピーカーと電気音響設計を担当しているMüller-BBM社のハラルド・フリッシュ(Harald Frisch)氏です。「私たちはこの部屋の音響特性に精通しています。最初の計画の模型もあり、新しいスピーカーシステムを計画する前に、それが現実に近いかどうかを確認するために使いました。」
フリッシュ氏と彼のチームは、20人ほどの聴衆を集めてL-Acousticsのシステムと高い能力を持つ競合他社のシステム2つで、ブラインドのスピーカー試聴会を開催しました。オリジナルのシステムはセルフパワードであったため、新しいシステムにはセルフパワードと外部アンプを使用する2つの技術仕様が作成されました。正確なコストを比較したところ、L-Acousticsの方が音質的な面とコスト的に優れていることが判りました。
Müller-BBMが直面した課題の一つは、会場のサイドギャラリーが以前のシステムでは十分にカバーできていなかったことです。「この問題を解決するために、ディレイではなく大型のアレイを使用しました。」とフリッシ氏は説明します。「ディレイは一般的な選択かもしれませんが、ギャラリーの観客にとってステージから離れた場所に音が定位してしまうという不幸な副作用があります。私達は、観客がどの席に座っていても、ギャラリーに音を届け、ステージに定位させるのに十分な迫力を持つ音源を用意したかったのです。」
アルフリード・クルップ・ザールは主にクラシック音楽のコンサートホールであるため、クラシックコンサート時には全てのアレイを天井まで上げなければならず、SRシステムが見えないようにする必要がありました。これにより、リギングやケーブルの配線に課題が生じました。」とフリッシ氏は言いますが、努力に見合うだけの効果はありました。
さらにフリッシ氏は「舞台の反対側のギャラリーには、後壁からの後方反射を防ぐためにディレイラインを設けました。新しいシステムでは、ステージの後ろにあるメインバルコニーは、メインシステムから少しのインパルスを受けるだけで、ステージに音響定位を作り出します。バルコニーを適切なSPLで完全にカバーするために、パワフルなディレイシステムを使用しています。」
Kara IIによる新システムは、ドイツのL-Acoustics公認パートナー・インテグレーターであるAmptown System Company GmbHによって供給、設置、設定が行われました。Amptownプロジェクト・マネージャーのミハエル・クレツァー(Michael Klötzer)氏は、「基本設計はL-Acousticsのシニア・アプリケーション・プロジェクト・エンジニアのマーティン・ローデ(Martin Rode)が行い、Müller-BBMチームとコラボレーションして完成させました。」と指摘します。
「旧システムでは常に困難だった上階のバルコニーのカバレッジを改善することが仕様の一つでした。」とローデは説明します。「Kara IIの水平ディスパーションは調整可能なので、それを部屋の形状に合わせてチューニングすることが可能です。メインアレイの上部のキャビネットを90度に設定したところ、素晴らしい結果が得られました。これはKara IIならではの特徴で、他のシステムでは実現できない、はるかに高い明瞭度を達成しています。」
客席エリアは、左右に12台、中央に8台のKara IIキャビネットによるL-C-Rアレイシステムでカバーされています。カーディオイド構成の片側4台のKS21サブウーハー が低域を補強し、9台のコンパクトな5XTが視界を邪魔しないようステージリップに沿って配置されフロントフィルを提供しています。2台のA10 (Wide、Focus1台ずつ)をKS21の上に置き、オーディエンスのためにボーカルをステージレベルで定位させます。
ホール全体のデザインは、360度をカバーする効果的な分散型システムとなっています。片側3台のKara IIキャビネットによるアレイが 、調整可能なディスパーションを活用して上階のバルコニーをカバーしています。その中のエンクロージャー2台は70度の狭い水平ディスパーションに設定されており、一番下のエンクロージャーは中間階のバルコニーをカバーするために90度に設定されました。舞台後の上にある聖歌隊バルコニーには、A10アレイが4つ設置されています。内側のアレイは3台のA10 Wideを使用し、外側のアレイは A10 Focus とWideを1台ずつ使用しています。さらに、Kara IIアレイの後ろにある後方バルコニーは アッパーバルコニー用に1台のA10 Wideを使用し、ローワーバルコニー用に片側2台のA10 Wideを使用しています。「メインシステムでこれらのエリアをカバーしていますが、追加のスピーカーによって、そこにもう少しエネルギーと鮮度を加えることができました。」とローデは指摘します。
キャリブレーションはP1プロセッサーとM1ソフトウェアを使用して行われました。最大122もの測定値を分析する必要があったのもかかわらず、M1測定シーケンスでは最大4つのマイクを同時に処理できるため、約2時間しかかかりませんでした。
ローデは、チームが会場で達成された一貫性に魅了されたと語ります。「音響的な方向性が常に舞台に定位しているので音像は一定しています。会場のどこに座っていても常に音像が正しい場所にいます。」
「自分のシステムを取り換えて新しい物を導入したことは、私のキャリアの中で初めてです。」とフリッシ氏は締めくくります。「L-Acousticsシステムから得られる結果はとても印象的で、フィルハーモニー・エッセンにふさわしいで迫力、カバレッジ、明瞭度を届けてくれます。」